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アリストテレスとは?
アリストテレスは古代ギリシアの哲学者です。
ソクラテス、プラトンと並んで古代ギリシアの三大哲学者と呼ばれています。
「人は誰でも生まれつき知ることを求める。」
これは彼の名言であり、「知ること」は人間であれば誰しもが求めることだと言いました。
この「知る」というのがどういうことかを真剣に考え、論理的に分析したのがアリストテレスです。
万物の祖
アリストテレスは哲学、政治学、倫理学、自然学、美学、論理学、形而上学などを論じ、現代存在するあらゆる学問の基礎を築きました。
学問の基礎を築くとはどういうことかというと、「どのような知識がどのように集積されていくべきか」を考えあげたということです。
このおかげで、知識は信頼性が増し、学問として成立するようになりました。
いわゆる「論理的に考える」という概念を作り上げたということです。
師匠プラトンとの関係
アリストテレスは17歳の時に、プラトンが作った哲学学園アカデメイアに入学し、プラトンの弟子になります。
プラトンが63歳の時です。そこで類稀なる才能を発揮し、「学校の精神」と評されたと伝えられています。
プラトンの弟子なので、もちろんイデア論にも精通していましたが、アリストテレスは<strong>「イデアは無意味に事物を2倍に増やしただけだ。」と批判し、新しい思想を提案しました。
アレキサンドロス大王の家庭教師
アリストテレスはマケドニア王・フィリッポス2世からの誘いにより、王子アレキサンドロスが13歳の時から3年間家庭教師として、弁論、文学、科学、医学、哲学など幅広い内容を教えました。
しかしアリストテレスが教えたのは高等教育だけです。
他にもレオニダス、リュシマコスなどの家庭教師がおり、彼らの方がアレキサンドロスとの関係性は強かったようです。
アリストテレス著作
現在残っているアリストテレスの著書は、アリストテレスが自身の学校リュケイオンで行った講義内容のノートを元に編成されています。
この講義ノートは紀元前1世紀頃に発見され、ロドス島出身のアリストテレス学者アンドロニコスによって編集され、「アリストテレス著作集」として公開されました。
以下、アリストテレスの著作一覧です。
- 論理学→「オルガノン」「カテゴリー論」「命題論」「分析論前書」「分析論後書」「トピカ」「詭弁論破論」
- 自然学→「自然学」「天体論」「生成消滅論」「気象論」
- 生物・動物学→「霊魂論」「自然学小論集」(「感覚と感覚とされるものについて」「記憶と想起について」「睡眠と覚醒について」「夢について」「夢占いについて」「長命と短命について」「青年と老年について、生と死について、呼吸について」「動物誌」「動物部分論」「動物運動論」「動物進行論」「動物発生論」)
- 形而上学→「形而上学」
- 倫理学→「ニコマコス倫理学」「大道徳学」「エウデモス倫理学」
- 政治学→「政治学」「アテナイ人の国制」
- レトリックと詩学→「弁論術」「詩学」
アリストテレス名言
アリストテレスの名言に触れることで、アリストテレスの人となりが理解できると思います。
私は、敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者の方を、より勇者と見る。自らに勝つことこそ、最も難しい勝利だからだ。
人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生が意味あるものとなる。
不幸は、本当の友人でない者を明らかにする。
欲望は満たされないことが自然であり、多くの者はそれを満たすためのみで生きる。
多数の友を持つ者は、一人の友も持たない。
幸せかどうかは、自分次第である。
アリストテレス思想
アリストテレスは「論理学」をあらゆる学問成果を体に入れるための「道具」として位置付け、学問体系を「理論」「実践」「制作」の3つに分けました。
- 理論:「自然学」「形而上学」
- 実践:「政治学」「倫理学」
- 制作:「詩学」
論理学
学問の基礎となる「論理学」は「帰納法」と「演繹法」に分けられます。
帰納法
個々の現象を観察し、それらに共通する特徴を集めて、一般法則を求める方法。
例えば、ソクラテスは死んだ。プラトンも死んだ。アリストテレスも死んだ。とそれぞれの事象を観察し、「人間は必ず死ぬ」という結論を導き出す方法です。
演繹法
一般法則や前提から、個々の現象を求めていく方法。帰納法と流れが逆になります。
「すべての人間は必ず死ぬ」という一般法則から、「アリストテレスは人間だ。ゆえにアリストテレスはいつか死ぬ。」と結論を導き出す方法です。
演繹法の代表として「三段論法」があります。
三段論法
三段論法は、大前提と小前提から結論を導き出す方法です。上の例でいうと
- すべての人間は必ず死ぬ。(大前提)
- アリストテレスは人間だ。(小前提)
- ゆえにアリストテレスは死ぬ。(結論)
となります。
これは三段論法の中で「定言的三段論法」と呼ばれています。
ほかには「仮言的三段論法」「選言的三段論法」があります。
形而上学
形而上学とは感覚や経験を超えた世界のことを考える学問です。
「なぜ人は存在しているのか?」とか「魂ってあるのか?」などが形而上学にあたります。
反対に感覚や経験で感じられる世界を形而下と呼びます。自然学などが形而下学にあたります。
世界はどのようにできているか?
以上の問いは形而上学の問いです。
プラトンはイデア論から、世界の成り立ちを説明しましたが、アリストテレスはこの世界は4つの要素で出来上がっているといいます。
- 質料:材料のこと
- 形相:形のこと
- 動力:材料に働く力のこと
- 目的:何を目指すか
例えば、木の「机」について考えます。質料である「木」に「机」という形相を加えることで机が完成します。
もちろん、木を切ったり組み立てる際に動力が必要となります。そして、誰かが机を欲しがっているという目的があるから机が作られると考えられます。
【木の机の場合】
- 質料:木
- 形相:机という形
- 動力:木を切ったり、組み立てる力
- 目的:誰かに使われるため
もちろん、椅子という形相が加われば椅子に、本棚という形相が加われば本棚になるという考え方です。
アリストテレスの考える「形相」がプラトンの考える「イデア」と一致します。
「形相」は形とだけ捉えるのではなく、そのモノの「本質」と捉えてもよいかもしれません
プラトンがイデアは物事から離れて存在すると説いたのに対して、アリストテレスはイデア(形相)は物事の中に存在すると考えた点が2人の思想の大きな違いです。
ちなみにこの考え方はもっと幅広く応用可能です。
【世界の場合】
- 質料:全ての物質
- 形相:宇宙という形
- 動力:世界における因果関係
- 目的:神のみぞ知る
この世界を一つの物と捉えると以上のような考え方が可能です。
この世界に存在する様々な物質が互いに因果関係によって作用しあい、一つの世界を作り上げています。
そして、この考え方の面白いところは、何かしらの目的を持ってこの世界は存在していると考えている点です。
アリストテレスは神の存在を認め、世界の存在目的を神に求めました。
自然学
自然学はいわゆる形而下の学問です。
つまり、感覚や経験によって感じられるものを対象とした学問です。
感覚や経験によって感じられるということは、徹底的に研究対象を観察して、分析していくことで、その研究対象の特徴を知識として体系化できるということです。
実際にアリストテレスはそのような方法で動物や植物、気候や物理などを細かく観察してまとめました。
これが現在の動物学、植物学、天文学、物理学などの基礎となっています。
倫理学
倫理学は「どのように人生を生きるべきか」を考える学問です。
師匠であるソクラテスやプラトンも同じテーマについて考えてきました。
アリストテレスは倫理学は「実践」であるべきだと主張します。つまり、頭で理解するだけではなくて、実際に行動して習慣化すべきものであるということです。
倫理学は人間にとっての「善」とは何か、「幸福」とは何かを突き詰めていく学問です。
技術も学問も行為も意図も、全てなんらかの善を志向している。
アリストテレスは人間の行う全てのことは善を求めて行われているとします。
なぜなら「善とは幸福」であるから。
つまり、人間は誰しも幸福になりたいと思って生きているということです。
幸福とはどのような状態のこと?
これは人それぞれ違うように思われます。
アリストテレスは幸福を達成するための方法を3つ紹介します。
- 快楽を求める
- 名誉を求める
- 真理を求める
このうちで「真理を求める」こそが、最高善(幸福)であると述べます。なぜなら、
- 快楽→楽しい、嬉しい→幸福
- 名誉→満足感、肯定感→幸福
というように快楽や名誉で幸せを感じるには間に楽しさや満足感といった別の感情が入っているのがわかります。
本当の意味の幸福とは「○○→幸福」と行為と幸福がダイレクトに繋がっている必要があるとアリストテレスは言います。
ではそんなものは存在するのでしょうか?
アリストテレスの答えはNOです。
神だけが完全な幸福を感じることができるといいます。
しかし、それに近い行為はある。それが「真理を求めること」だと。
だから「真理を求めること」が人間にとって最高善(幸福)だとアリストテレスは説きます。
どのように生きるべきか
幸福を達成するには「真理を求める」必要があることは以上で述べました。
真理を求めるとは「人間のあるべき姿を求める」ということです。
人間には理性があります。これが他の動物とは違う点です。
この「理性を適切に用いて生きる生活」が人間のあるべき姿だとアリストテレスは説きます。
具体的には「中庸」に生きるということです。
中庸とは極端に行き過ぎることなく、適度な程度を指します。
例えば、勇敢であることが徳であったとしても、行き過ぎると無謀となってしまいます。
節制が徳であったとしても、行き過ぎるとケチになってしまいます。
どんなことも適切な程度があり、それを目指す生き方が中庸です。
政治学
倫理学で「よく生きるには?」と考えたアリストテレスは国家(ポリス)のあり方についても考えました。
国家の存在理由は国に属する人間が「よく生きる」ため。
どのような制度や仕組みがあれば、人間が善を目指して徳を発揮して生きていことができるのかを考えるのが政治学です。
「人間は本性上、政治的(ポリス的)動物である」
これは有名な言葉ですが、人間は社会的な動物であるという意味ではありません。
人間は幸福を目指す動物であり、ポリス(国家)もまた幸福を目的とするものであるため、人間がポリスを持つのは自然なことだというのが本意です。
3つの政治体制
アリストテレスは3つの政治体制があることを主張しました。
- 君主制(一人の王様が支配)
- 貴族制(少数の特権階級が支配)
- 民主制(国民みんなで支配)
しかしこの体制はそれぞれに問題を抱えています。
- 君主制→独裁制(王様が好き勝手やると国がボロボロに)
- 貴族制→寡頭制(特権階級が権力争い派閥争いに夢中になり国がボロボロに)
- 民主制→衆愚制(政治に無関心な大衆が増えた場合、人気投票などで国がボロボロに)
いずれの政治体制も問題を抱えており、どれが一番優れた体制だとはアリストテレスは決めていません。
君主制の場合は優秀な君主が、貴族制の場合は優秀な特権階級がいることが良い国家体制の条件だと述べています。
つまり、結局は人次第ということです。ちなみにアリストテレスはペリスレス時代の民主制を理想としています。
まとめ
以上、万物の祖と呼ばれるアリストテレスについてご紹介しました。
学問の成立するきっかけとなった論理学の構築を始め、自然学、形而上学、倫理学、政治学と一人で数々の学問のベースを作り上げたアリストテレスはまさに偉大な人物であったと言っていいでしょう。
アリストテレスのことを考えると2000年以上経っても、人間が考えることはそんなに大きく変わっていないということに驚かされます。